2020年7月16日、奈良県が以前より構想していた、世界遺産である平城宮跡地の中を走っている近鉄奈良線を平城宮跡地の外へ移設する、という案について、奈良市と近鉄が協議の開始に合意したことが新井知事の会見によって明らかになりました。
この移設事業には、大和西大寺駅周辺の高架化、移設先である「大宮通り」区間での地下化、「(仮称)朱雀大路駅」の新設、新大宮駅の移設,そして「(仮称)油阪駅」の復活開業という多くの事業が含まれています。
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計画の概要
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今回移設の対象になるのは大和西大寺駅から近鉄奈良駅までの4.4kmの区間です。
大和西大寺駅周辺は立体交差にするために駅を高架化。そこから奈良線は南下し、朱雀門の南に東西に走る大宮通り付近から先は近鉄奈良駅まで地下へもぐります。そして近鉄奈良駅までの間に、(仮称)朱雀大路駅、新大宮駅、(仮称)油阪駅の3駅を設置します。
これにより平城宮跡を東西に分断する線路の解消されるほか、8か所の開かずの踏切が解消されます。
またこの計画について近鉄は「現段階で決まっていることはない」としており、そもそも協議に応じる条件として、
・行政側が費用を全て負担すること
・運行時間など現在のサービス水準を維持すること
の2つを提示しています。
事業費や開業時期などはまだ未定で、今後奈良県は奈良市や近鉄と協議して事業スキームをつくるとしています。
どうして平城宮跡地に鉄道が?
そもそも、なぜ世界遺産である平城宮跡地に鉄道が走っているのでしょうか。決して運行時間を少しでも短縮するために世界遺産に線路を敷いたわけではありませんよ(笑)。
答えは、線路を敷いた時にはそこは平城宮跡ではなかったからです。
近鉄奈良線、当時の大阪電気軌道奈良線が線路を敷いた1914年には、もちろん平城宮の跡地を考慮して跡地の外側に線路を敷きました。しかし、後の1960年に平城宮がもっと広大だったことが判明したのです。その後平城宮跡が世界遺産に登録されたこともあり、少しずつこれを問題視する声が大きくなっていったのです。
大和西大寺駅周辺の高架化

日本トップクラスに複雑な駅である大和西大寺駅が高架化されます。今年4月に南北自由通路が完成したばかりですが、それも取り壊しになってしまうのでしょうか。

複雑な配線で有名な淡路駅も現在高架化に向けて工事が行われていますが、こちらはさらに複雑。
淡路駅は大阪梅田・京都河原町・北千里・天神橋筋六丁目方面の4方向に延びる線路に対して、大和西大寺駅は大阪難波・近鉄奈良・京都・橿原神宮前方面に加えて、西大寺車庫への入出庫線まであります。淡路駅のように高架化によって線路が整理される可能性はありますよね。
また、淡路駅の工事は20年級の工事ですので、こちらの工事も相当な年月がかかりそうな気がします。
移設先「大宮通り」区間の地下化
大宮通りは、直通する登大路も含めて、奈良市内のメインストリートです。平城宮跡の正門である朱雀門や、奈良市庁に県庁、複合商業施設「ミ・ナーラ」や金融機関も集中しています。近鉄奈良線の移設先は主にこの大宮通りの地下になる模様です。現在は近鉄奈良駅の周辺だけは地下化されているのですが、さらに地下区間が増えることになります。
さらにこの大宮通りの地下に3つの駅が新設することを奈良県は計画しているのです。
新駅「(仮称)朱雀大路駅」の設置
朱雀大路駅は、平城宮の正門のである朱雀門前に設置されることが計画されています。ですので、おそらく朱雀門前交差点付近になると思います。
2018年に、朱雀門の前には「朱雀門ひろば」という観光拠点が整備されました。観光施設だけでなく、飲食・物販施設、遣唐使船が展示されているなど大規模な施設になっているのですが、現在ここに行くには徒歩かバスしかなく、集客に苦労しているようです。アクセス改善となるでしょうか。
駅ナンバリングは大和西大寺駅の隣になるので、A27 が割り振られると思います。東京メトロ日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅が開業した時は、駅番号をひとつずつずらしていましたよね。
また、この朱雀大路駅は新駅なのですが、1947年から4年間だけ臨時駅の「キャンプカー駅」が設置されていた場所になります。GHQ(進駐軍)のキャンプが近くに置かれていたため、軍関係者の利用目的で設置されていたようです。ある意味、朱雀大路駅はキャンプカー駅の復活開業ともいえるでしょう。

新大宮駅の移設
線路が移設に伴って新大宮駅は少し南に移転、大宮通りの地下に建設される予定です。この付近には2020年に奈良県コンベンションセンターが開業し、JWマリオットホテル奈良やNHK奈良放送会館なども一体で開発されています。アクセスの改善につながるかもしれません。
駅ナンバリングは、大和西大寺駅との間に朱雀大路駅が加わるので A27からA28 に振りなおされると考えられます。

油阪駅の復活開業

1969年の近鉄奈良駅地下化にて廃止された油阪駅が約50年ぶりに復活、地下駅として建設される予定です。位置的にはJRと交差する地点なので、JR奈良駅との乗り換えは5分ほどで可能になるのでわないでしょうか。現在近鉄奈良駅とJR奈良駅の乗り換えには15分ほどかかりますので、かなり便利になりますよね。
油阪駅の駅ナンバリングは順番的に A29 になると思われます。そして近鉄奈良駅は A28からA30 に振りなおされるでしょう。


計画に関係する歴史
1914年4月30日 | 大阪電気軌道(現 近鉄)、上本町~奈良間開業。 |
1922年10月12日 | 平城宮跡が国の史跡に指定される。 |
1960年 | 平城宮跡の範囲が確定する。同時に、奈良線が平城宮跡を横断していたことが判明する。 |
1998年12月2日 | 平城宮跡を含む8件の地域遺産と緩衝地域が「古都奈良の文化財」として世界遺産に登録される。 |
2017年1月27日 | 平城宮跡周辺の踏切4か所が、踏切道改良促進法にもとづく踏切道に指定される。 |
2017年4月7日 | 世界遺産の平城宮跡を横切る近鉄奈良線の移設について、奈良県・奈良市・近鉄が検討を始めることで合意する。 |
2020年7月16日 | 近鉄奈良線の移設について、奈良県・奈良市・近鉄が協議の開始に合意したことを新井知事が会見にて公表。 |
参考文献
日本経済新聞「立体化義務などの危険踏切、新たに529カ所 国交省」
日本経済新聞「平城宮跡通る奈良線移設案、近鉄と県・市協定 定期的に協議」
NHKニュース「近鉄奈良線 移設で合意」
日本経済新聞「平城宮跡横断の近鉄奈良線、県・市と移設協議へ」
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